Jリーグは、12月19日の理事会で 2026-27からシーズン移行する決定を発表した。
前々から検討されてきたことではあるが、カジュアルファンにとっては『シーズン移行』と言われても変更点や必要性が分からないという方は多いだろう。
そこで今回は、シーズン移行について分かりやすくまとめてみた。
シーズン移行とは?
シーズン移行とは、端的に言えば試合の開催時期を移行すること。
Jリーグは、創世記から開催時期がほとんど変更されておらず各国のリーグや大会とのズレが生じている。
そのズレをなくし、世界基準へのリーグへと昇華させることがシーズン移行の狙いだ。
変更点
【現在】
開幕:2月3週頃
閉幕:12月1週頃
【移行後】
開幕:8月1週頃
閉幕: 5月末頃
12月2週頃~2月3週頃までの降雪期間はウィンターブレイク
W杯・アジア杯による隔年ごとの中断期間が必要なくなり、降雪期間にウィンターブレイクを入れる秋春制へと変更。
Jリーグがシーズン移行する理由
1993年に開幕したJリーグは、今年で30周年を迎える節目の年。
何故、このタイミングでシーズン移行に踏み切るのか!それは、世界トップリーグとの差が大きく広がってしまったからだ。
Jリーグが発足したことにより、日本におけるサッカー需要が高まり世界でも戦える選手を多く輩出できる国へと昇華したことは間違いない。
しかし、海外トップリーグの成長スピードには追い付てけていないのが現実だ。
トップリーグとの差
現在、世界のトップと言われているプレミアリーグの1部に所属する20クラブの売上は約8,300億円。
一方、Jリーグは全58クラブを合わせても1,375億円と6倍以上の差をつけられている。
世界のトップリーグと比べても意味がないと思うかもしれないが、Jリーグ創世記の1994‐95シーズン辺りは共に500億円規模だったと言われている。
つまり、この30年余りで比べるのもおこがましいほどの大きな差をつけられしまったのである。
クラブ単位でも大きな差が…
リーグの価値に差があれば、当然クラブの価値にも大きな影響を与えることになる。
世界のトップリーグと差が広がったことで、必然的に世界トップクラブとJクラブの価値にも大きな差が生まれてしまった。
Jクラブ年間売上トップ5の平均が68億円なのに対して、クラブランキング21位~40位のクラブは平均231億円、1位~20位のクラブは平均630億円と10倍近い差が生まれてしまっている。
世界から取り残される危険性
成長スピードが止まってしまえば、海外から取り残されてしまう。
当然、魅力的なクラブへ選手が流れてしまい、魅力的な選手がいなくなればファンもいなくなる負のスパイラルに陥る。
そして、自国のリーグに魅力が無くなれば世界で戦える国ではなくなってしまうかもしれない。
例えば、若手の流出が増えれば、帰化して他国の代表選手として活躍する選手も現れるだろう。
ブラジルやアルゼンチンと比較して楽観視してはいけない。
確かに近年のクラブレベルはヨーロッパが中心で、南米リーグの価値は以前ほど高くないが代表チームは活躍している。
しかし、彼らにとってサッカーは国技であり、なけなしのお金でサッカーを楽しむほど国民に浸透している。
一方で、日本におけるサッカーは娯楽の一つだ。娯楽はより関心度が高いコンテンツが見つかればすぐに廃れてしまうことを忘れてはいけない。
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シーズン移行をするメリット
Jリーグはシーズン移行することで、海外トップリーグとの差を埋め行くことを目指している。
では、実際どんな効果が期待できるのだろうか。
国際大会での成績向上
①AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の開催時期変更
2023年から9月~5月へシーズン移行。これにより、Jクラブはシーズンをまたいで大会を戦うことに。シーズンをまたぐことでチーム編成などオフシーズンに大きな影響を与える。
シーズン移行すれば、ACLとJリーグと同シーズンで戦うことができる。
②クラブW杯の規模拡大
2025年からクラブW杯が32クラブ(前:9クラブ)の大会へ拡大。 欧州からも12クラブ参加する大会となる予定。
近年のクラブW杯はチャンピオンズリーグ優勝クラブ1強の状況で、欧州クラブも本気で臨んでいる姿勢は見られない。しかし、欧州クラブが多数参加することにより大会のレベルと格が上がる。
Jクラブが世界のトップクラブと本気で戦える場ができるというわけだ。そこで重要なのが、本気で大会に望めるコンディションを作ること。
シーズン移行することで疲れが残るシーズン終了後ではなく、コンディションのピークを持ってきやすいシーズン中盤に参加できる。
※クラブW杯は12月2週頃~3週頃まで開催、拡大後のスケジュールは不明
より魅力あるリーグへ
現行の開催スケジュールでは、リーグの魅力を落としている要因が2つある。
それは、
- 猛暑によるインテンシティの低下
- 移籍期間のズレによる戦力と練度の低下
この2つは、シーズン移行することで改善することができる。では、シーズン移行しないとどのような影響が出てくるのだろうか。
猛暑によるインテンシティの低下
気象庁のデータによればJリーグ開幕時の8月平均気温24.8℃に対して、2023年8月は34.8℃と10℃も気温上昇している。
選手への影響も大きく、6月~9月のハイインテンシティ(高強度)が著しく低下しているのが問題だ。
単純に強度が低い(パフォーマンスレベルが下がった)サッカーは魅力的とは言えない。
さらに言えば、これがシーズン中盤にきていることも問題だ。本来であれば、中盤に向けて盛り上がりを見せていかなければいけないところだがJリーグは開幕時周辺でコンディションのピークを迎えている。
また、コンディションが上がらない耐える状態が長く続くため、クラブが個々のスタイルを思考し練度を上げていくことが難しい。結果として、戦術的にも世界との差が生まれてしまうことになる。
移籍期間のズレによる戦力と練度の低下
移籍については、シーズンオフに多くの選手を取引することでチーム作りをし、シーズン中は足りないピースを埋める程度の移籍というのがスタンダードになっている。
移籍期間がズレているということは、そのサイクルともズレてくることになる。
Jリーグがチーム作りをしたいオフには、国内移籍のみで海外から選手を獲得のが難しい。一方で足りないピースを埋めたいシーズン中に有力選手が海外へステップアップしてしまう状態だ。
中心選手が抜けてしまえばシステムを変えざる負えなくなる場合もあるが、シーズン中のシステム変更は困難だ。また、有力選手を獲得しても適応するまでに時間を要することが多くチームの中心に据えるのは難しいことが多い。
結果として、シーズン開幕前より戦力や練度が低下しリーグの魅力が低下してしまっている。
移籍しやすい環境へ
シーズン移行をする理由でもふれたが、Jリーグと世界トップリーグの市場規模には大きな差が生まれている。
これにはいろいろな要因があるが、先ほどふれた移籍期間のズレによる影響もある。
例えば、シーズン中の主力選手放出を嫌い移籍を断れば再度獲得打診があるとは限らない。また、獲得打診があったとしても契約期間の残数が減っているため移籍金が低下する可能性も高い。
シーズン移行し移籍期間のズレをなくし、海外クラブの運営スケジュールと合わせることで移籍しやすい環境が生まれる。
これにより、クラブの売上も向上する可能性がある。
シーズン移行によるデメリットと課題
もちろん、シーズン移行すればすべてがうまくいくわけではない。
Jリーグも、残された課題を継続検討していくと明言している通り課題が残っている。
デメリット①夏休み期間中の集客
シーズン移行の話題が出た当初から懸念されていた、夏休み期間の集客。
移行することにより最も集客の多い夏休み初旬を逃すことになるため、集客効果への影響は少なからずある。
集客数の低下は、クラブの収益にも大きな影響を与えるポイントになるため大きなデメリットの一つと言えるだろう。
但し、近年は夏休み期間が学校ごとで変わるなど学校スケジュールにも変化が見られるためシーズン移行による影響はそこまで大きくならないのかもしれない。
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デメリット②年度の異なり
日本のカレンダーは4月で始まり、3月で終わる。
企業もそれに倣って4月を期初と定めていることが多く、シーズン移行により年度をまたがって運営することで大きな影響を与える可能性がある。
年度が替わり企業の期が変わってしまえば、予算も変わるため企業からの投資もよりシビアに判断されることになるだろう。
デメリット③試合開催できる期間の短縮
現行のシーズンは8カ月と2週間程度でスケジュールを消化していたが、シーズン移行によりウィンターブレイクが入ることで6ヶ月と2週間程度でスケジュール消化する必要が出てくる。
短期間で試合を消化するためには試合間隔を短くするしかなく、当然選手にかかる負担は大きくなる。
疲労による選手のコンディション低下や負傷者の続出のリスクは高くなるだろう。
課題①降雪地域の対応
現行のシーズンでは12月1週~2月3週目までオフだったが、シーズン移行によりその時期はシーズン中となる。
試合が行われる期間は12月2週目までで、ウィンターブレイクを挟んで2月3週から再開となるため1試合しか増えていないがウィンターブレイク中もオフではないため、コンディションを保つためにトレーニングが必要不可欠だ。
そうなれば、降雪地域(北海道・東北・北陸など)は除雪対策に追われることになり予算や労力の面で公平とは言えなくなるだろう。
Jリーグは降雪地域への支援を検討しているが、一部クラブだけに支援をするのも公平であるか疑問の残るところだ。
課題②移行期の対応
シーズン移行により、2月開幕から8月開幕に変更することになる。
それにより移行期には、通常2カ月半ほどのオフが8カ月ほどに増えてしまう。
選手のコンディションを保つためには長すぎるオフであり、移行期にもエキシビションマッチや特別大会を組み込むなど対応が必要だろう。
課題③寒い中での試合数増加
シーズン移行後は、12月2週頃まで試合をする予定のため現行より1週間長い。
そのため、寒い中での試合が1~2試合程度増える見込み。猛暑とは違ったリスクが発生するため、対策が必要だ。
また、試合開催期間が短くなり試合のサイクルを早めれば1~2試合の増加では済まない可能性もある。
課題④アマへの対応
Jリーグが管轄するのは、J1・J2・J3まで。JFLや地域リーグまでは管轄していないため、Jリーグのシーズン移行に準ずる必要はない。
しかし、昇降格で繋がりがあるため必然的にシーズンを合わせる必要が出てくる。
プロはサッカーに振り切っているためシーズンが変わっても合わせることができるが、アマの場合は本業との兼ね合いで出場できない選手が出る可能性もあるだろう。
また、プロクラブや地域クラブのユースが選手育成の場となっている欧州と違い、部活が主流の日本ではシーズン移行が影響を与える可能性も大きい。
例えば、シーズン開幕は所属していても、閉幕頃には卒業しているといったこともあり得るだろう……。
育成環境の場を無視しては強い国、強いリーグを作ることできない。アマへの対応も急務であるといえるだろう。
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シーズン移行して目指す姿
さて、最後になってしまったがシーズン移行を継起にこれからJリーグが目指す姿についても紹介しておく。
究極の目標は、
・Jリーグを世界一のリーグへ
・Jリーグ選手中心の日本代表でW杯優勝
とはいえ、いきなりここを目指すのは現実的ではない。
ということで次の10年で目指す姿についても明言している。
次の10年で目指す姿
- アジアで勝ち、世界と戦うJリーグ
●ACLで4年に2回優勝&出場全3クラブが毎年ベスト8以上
(↑クラブW杯に2クラブが参加できる)
●クラブW杯でベスト8以上
●トップクラブの売上規模:200億円 - 欧州リーグとJリーグ選手による日本代表
● 日本代表のJリーグ選手の割合30%(=8名/26名)
※現在は15%(=4名/26名)程度 - 全Jクラブの売上を1.5-2倍へ
● トップラインを引き上げながら、 それぞれのクラブの売上を底上げ
【2倍の場合】 J1平均:49億→97億 /J2平均:17億→35億 /J3平均:7億→13億
※2022年度経営情報との比較、億単位未満は四捨五入
これを実現するために、以下のタスクを10年で着実に実行していく。
- Jリーグの中に"世界基準を作る
- クラブとしてW杯ベスト8以上を目指す
- ACLやクラブW杯など国際大会で賞金獲得
- 海外からの移籍金収益の増加
- グローバルコンテンツとなるクラブが登場することによる放映権料の増加
- 競争環境の構築
- カテゴリーごとの配分金比率を欧州に近づけ、J1の水準を高める
- J2・J3も含めた全クラブが成長できるよう、各リーグのクラブ数変更や、新理念強化配分金を導入
- トップクラブは、新ルヴァンカップなどで、下位カテゴリーへ価値還元
- 各地域での圧倒的な露出
- テレビ等での露出量を圧倒的に増やす
- クラブごとのスタイルでファン・収益の増加を目指せるようにリーグがサポート
- 降雪地域でもスポーツが楽しめる環境づくり
- 気候変動下においても、全国各地でスポーツが楽しめる環境の維持構築
シーズン移行を継起にJリーグを世界トップリーグへ
Jリーグはこの30年で大きな成長を遂げてきた。
しかし、現在は成長が停滞気味であり市場規模やレベルにおいて欧州クラブと大きな差をつけられてしまった。
シーズン移行をすればすべてが解決するわけではないが、世界との差を縮める大きな一歩になる可能性を秘めた政策だ。
デメリットがないわけではないが、停滞した成長を活性化させ、世界トップレベルを目指すのであれば変化は必要だろう。
シーズン移行は2026年8月からと、まだ3年弱の期間がある。これまでにしっかりと対策をし、スムーズにシーズン移行できることを期待しよう。